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日本語教育・再考(Web版)

 

技能実習生や働く外国人に対する日本語指導を考える〈その6〉
~『あたらしいじっせんにほんご』を教科書に使って教える3~(2013年9月1日号掲載)

公益社団法人 国際日本語普及協会
地域日本語教育担当理事 関口 明子

今回は1課の2B 「よく きいて その とおりにうごく」からスタートです。

2B よく きいて その とおりにうごく
 実習生や働く外国人にとって一番大切な、仕事場での日本語の指示を聞きとって、すぐに行動出来るようになるための練習をします。
 「たってください」という指示を聞いたら、すぐに立つ。学習者が最初分からないような時は、教師がそばに行って、一緒に動作をします。同様に、「すわってください」と言われたら、座る。「こっちに来てください」と言われたら、話し手の方に来る。これは、緊張する学習者の心に着目し、緊張をほぐし、楽な気持ちで学習するために、米国の心理学者が考えた外国語教授法「TPR(注)」の考え方を活用したものです。

 自分から話さなくてもいい、黙っていていいのです。しかし、すぐに行動できることが大切です。この方法で、聞いてすぐ行動することを効果的に身につけるには、①一度に沢山練習しない、②長い時間をかけない、③しかし、継続的に練習する、④前に練習した表現は必ず毎回する、ということを心がけてください1課で「たってください」「すわってください」「ここへきてください」を練習したら、2課では、「きいて ください」「みんなで いってください」を練習する時に、必ず1課の3つも一緒に練習して下さい。 このようにして、聞いてすぐに動作ができることが、どんどん増えていきます。16頁の「きょうしつで つかうことば」の、「みて(ください)」「こくばんを みて(ください)」……「しまって(ください)」「ほんを しまって(ください)」などを、少しずつ毎日練習して下さい。学習者は、教師の指示を聞いて動作するだけです。話す必要はありません。この練習をするうちに、「〇さん、こっちに来て、その棚の上から2番目のペンチをとって△さんにあげてください」といった複雑な指示を聞いて行動することができるようになります。

3 くりかえし いって おぼえる
 「くりかえし いって おぼえる」の表現は、それぞれの課で学習者に覚えてほしい、最も大切な表現です。しかし、1課の挨拶はこれから何回も使う機会があるので、この課で完全に覚える必要はありません。いろいろな挨拶の絵カードなどを使い、ホワイトボードに貼ってある(※第四課参照)「ていねいな ことば」と「ともだち ことば」の絵カードと翻訳カードを指しながら、教師と学習者、年上の学習者と年下の学習者、同年齢の学習者同士等で挨拶の練習をして下さい。
 一例として、ある授業で、ともだちことば表現の練習として、学習者同士で「おはよう」「おはよう」と言う練習をしていた時の話をします。Aさんが「先生、私は22歳、Bさんは30歳。私、『ていねいなことば』いいです」と、一生懸命、先輩のBさんには「ともだちことば」で挨拶出来ないと私に訴えてきました。そして、AさんはBさんに「おはようございます」と挨拶し、BさんはAさんに「おはよう」と返しました。みんなから拍手が起こり、他 の学習者全員が、「ていねいなことば」と「ともだちことば」を、自分達で決めて挨拶し合いました。これは、人によって挨拶の仕方が違う「位相」の学習を学習者の提案で行えたということです。私が一律に「ともだちことば」で学習者同士の挨拶練習と考えたのは、浅はかですよね。
 「~からきました」「どうぞよろしく」の表現は、既に本国で学習してきている学習者はいいのですが、そうではない学習者には、まず翻訳本の該当部分を指して理解してもらいます。
 翻訳本については次回説明をします。

4 はなす れんしゅう
 3で覚えた表現を、会話の中で使えるように練習します。日本人のせりふは、学習者は言えなくても、聞いてなんとなく分かれば問題ありません。ですから、日本人の役は教師がしてください。かなり日本語レベルの高い学習者がいる場合は、その人に日本人役をしてもらうことが、学習者の満足感につながります。「はなす れんしゅう」はいくつか会話が載っていますが、必ずしも全部練習する必要はありません。1)から易しい順に並んでいますので、適宜選んで練習して下さい。*印のついている会話が所々出てきますが、これは母国でかなり学習してきて話す力もある学習者に対して使ってください。
 次回は最終回です。「あたらしいじっせんにほんご」にある「絵入り分類語彙表」や、別冊の翻訳本の有効な使い方等をご紹介します。

注1.TPR The Total Physical Response Approachの略。動作と連合した聴解能力こそが話す能力に結びつくという考え方の下、聴解練習を口頭練習より優先させる、言葉を聞いて身体全体で反応するように指導する、自然に話したくなるのを待つ、決して発話を強制しない、という米国の心理学者James J.Asherが開発した教授法である

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