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チャイナ・レポート(Web版)

「政府活動報告」のポイント(2018年5月1日号掲載)

日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修

 本年3月5~20日にかけて、全国人民代表大会が開催され、李克強総理が政府活動報告を行い、当面の経済政策の方向性が明らかになった。本稿では、このエッセンスを説明する。

1.2018年の主要経済目標

 GDP成長率目標は、前年と同じく6・5%前後となった。昨年は比較的高い成長を実現したが、これは輸出が好調だったことが大きく、内需を見ると、消費は今のところ安定しているが、投資は民間投資に余り力がなく、住宅市場の過熱が鎮静化すれば、今後不動産開発投資が落ちてくる可能性がある。
 中国は2020年のGDPを2010年比で倍増するという目標を定めているが、これまで高い成長を維持してきたので、この目標を達成するには今後3年、年平均6・3%以上の成長があればいい計算となる。今は雇用状態も良いので、質の高い発展が重視されるときに、無理に高い成長を目指す必要はないのである。
 消費者物価上昇率は、前年と同様3%前後となった。物価は、今のところ落ち着いている。
 雇用指標の目標は、都市新規就業者は、昨年同様1100万人以上増やすとしている。2018年はなお、820万人の大学卒業生など多くの新規労働力が市場に参入し、加えて設備過剰業種のリストラにより、従業員の転職が続くと予想されている。他方で、サービス業が発展するに伴い、雇用の吸収力が高まっているので、6・5%前後の経済成長でも雇用目標を実現できると考えられている。
 都市登録失業率は、昨年同様4・5%以内であるが、今年から新しく「都市調査失業率5・5%以内」という目標が加わった。従来の失業率統計は、出稼ぎ農民がカウントされておらず、失業の実態を正しく反映していなかった。そこで、李克強総理が農村戸籍者を含めた新しい失業統計の作成を命じ、今回目標として追加されることになったのである。

2.マクロ経済政策

 昨年12月の中央経済工作会議で、成長の質・効率の向上と、債務比率の削減が当面重視されるようになったことに伴い、財政政策は景気刺激色が薄まった。2018年度の財政赤字の対GDP比目標は、前年度の3%から2・6%と0・4ポイント引き下げられている。ただ、財政赤字の規模は同じであり、支出も伸びており、積極財政政策の転換とまではいえない。
 また、金融政策も、昨年同様景気に対して中立的に運営するとされた。

3.構造調整

 他方、習近平指導部は、生産性と潜在的な成長力を高めるため、過剰設備の削減を強化しているが、2018年も、鉄鋼生産能力3000万トン前後、石炭生産能力1・5億トン以上を圧縮・削減し、30万キロワット以下の火力発電の生産能力を淘汰するとしている。
 また、過剰設備を抱え経営の成り立たない「ゾンビ企業」の破産・清算と再編を強化し、従業員の再就職と債務処理をしっかり行うとする。

4.改革・開放

  今年は改革・開放40周年である。李克強総理は、政府活動報告で、「改革・開放は、今後の中国の命運を決定するカギである」とし、改革・開放の強化を訴えた。報告には、国有企業改革、民営企業の発展支援、財産権の保護、財政・金融改革の項目が並べられている。
 また、対外開放でも、一般製造業・電信・医療・教育・高齢者ケア・新エネルギー自動車の分野での開放拡大、金融分野での外資の持ち株比率の規制緩和が掲げられた。
 現在のところ、中国は自国の抱えるリスクをよく承知しており、過剰設備や債務比率削減にむけて、着々と手を打っているので、当面緩やかな成長の減速はあっても、直ちに経済がハードランディングに陥る可能性は乏しいものと思われる。
 ただ、質の高い発展を真に実現できかどうかは、昨年以来の党規約と憲法改正によって飛躍的に高められた、習近平国家主席・党総書記の政治的リーダシップが、真に構造調整・構造改革に向けられるかにかかっているといえるだろう。

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