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チャイナ・レポート(Web版)

5年に1度のジンクス(2013年7月1日号掲載)

日中産学官交流機構特別研究員 田中 修

 中国では、ここのところ総理選出の年に必ず大きな災害が発生しており、その度にマクロ経済政策に対して地方から圧力が高まり、財政拡張・金融緩和に方針転換を余儀なくされている。
 1998年、朱鎔基総理が誕生したとき、それ以前のマクロ経済政策は、インフレ対策のため引締め気味であった。しかし、1998年前半にはアジア通貨危機の影響でアジア向けの輸出が大きく落ち込み、景気に陰りが出ていた。そこに夏場、長江流域と東北地方で大洪水が発生したため、8月に至り朱鎔基総理は、財政拡張・金融緩和に方針転換したのである。
 2003年前半に新型肺炎SARSが急拡大したときには、消費・第3次産業にかなりのダメージが見込まれたため、温家宝総理は5月から6月にかけて数次にわたり国務院常務会議・全体会議を開催し、投資拡大を中心とした緊急経済テコ入れ策を打ち出した。その結果として、SARS終息後、中国経済には猛烈な投資過熱が発生した。
 2008年5月の四川大地震のときも状況は似ている。2007年に証券市場・不動産市場にバブル傾向が現れたことを受け、2008年のマクロ経済政策は引締め気味に運営されていた。しかし、サブプライムローン危機の発生により世界経済は後退し始めており、中国の輸出に陰りが出ていた。そこに5月、四川大地震が発生したため、6月に中央・地方責任者会議が緊急招集され、マクロ経済政策の再検討・修正が行われた。
 さらに11月、中国はリーマン・ショックに対応するため、4兆元の投資追加・構造的減税・大幅な金融緩和等を内容とする大規模な景気対策を発動した。この結果、経済成長率が上向き、雇用が改善され、世界経済における中国の地位が大きく向上したことは確かである。だが、景気対策はその副作用として、住宅価格の高騰、インフレ、生産能力の過剰、地方政府の債務増大をもたらした。
 そして2013年現在、中国経済は大きな潜在リスクを抱えており、ここで無理な景気刺激策を発動すれば、リスクが顕在化するおそれがある。
 しかし、4月17日に国務院常務会議が開催され、1─3月期の経済情勢を分析し、当面マクロ経済政策に方針変更がないことを確認したにもかかわらず、そのわずか8日後の4月25日に共産党中央政治局常務委員会が開催され、共産党トップ7人が再びマクロ政策に変更がない旨を確認している。このように、急遽25日に政治局常務委員会が開催された背景には、四川蘆山地震とH7N9型鳥インフルエンザの拡大があろう。
 当初政府は、1─3月期の経済が伸び悩んでも、経済構造調整を重視し、マクロ経済政策を転換するつもりはなかった。これに対して、投資拡大を目論む地方政府は不満を抱いていたのであろう。それが、鳥インフルエンザの拡大と四川地震の発生を契機に、景気テコ入れ要求として噴き出てきたのではないか。このため、政治局常務委員会がトップダウンの形で、マクロ経済政策を変更しない旨の決定を下さざるを得なかったのであろう。
 李克強総理も、5月13 日の国務院のテレビ会議において、2009─2010年のときのような大型景気刺激策の発動を明確に否定している。
 しかし、6月末から7月にかけて、例年であれば指導部の地方視察が頻繁に行われ、北京でも総理主催の経済情勢分析座談会が何度か開催される。4─6月期のGDP成長率が発表されると、国務院常務会議、党外人士座談会、党中央政治局会議が相次いで開催され、年後半のマクロ経済政策が議論されることになる。もし、4─6月期の経済が引き続き足踏み状態であれば、地方の景気拡大要求は更に強まり、指導部は調整に苦しむことになろう。

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